義経千本桜・考




 「義経千本桜」は、「菅原伝授手習鑑」「仮名手本忠臣蔵」と並んで
浄瑠璃の三大名作
といわれ延亨4年(1747)に大坂竹本座にて初演されました。
竹田出雲、三好松洛、並木川柳の合作で初演より大当たりを取り、
2ケ月後には歌舞伎として上演されました。

主人公は義経ですが、彼はいわば多数の登場人物を繋ぐ扇の要のような存在で、
物語の主体となるのは源平合戦で滅びたはずの敵平知盛平維盛平教経
それから吉野の庶民一家そして義経家臣佐藤忠信の偽者です。
この為あらすじも、
平知盛・吉野の一家・偽忠信それぞれ三つの筋が交互に上演される形態となっています。
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もし平家の武将が生きていたら・という設定と、 親を慕う
子狐の登場が、観客の興味を上手く 引き出しています。

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お芝居の構成は五段十二場・・・

仙洞御所の段
「忠なるかな忠、信なるかな信」と、『佐藤忠信』『忠誠心』を暗示する言葉で始まります。平家滅亡後、義経が後白河法皇の御所に参上し、合戦の次第を語ります。『初音の鼓』を下賜されるが、「鼓を打つ」ことは「頼朝を討つ」という院宣であることから、鼓を返上しようとする義経だが、朝敵といわれ、鼓は打たない、との条件付で拝領します。
北嵯峨の段
平維盛の御台若葉の内侍は若君六代とともに北嵯峨の尼の元に匿われています。維盛生存の噂を聞き、また朝方の追っ手が迫ったことで、家来小金吾が供をして、北嵯峨を脱出します。
堀川御所の段
二条堀川の義経の館に、鎌倉の重臣川越太郎重頼が、頼朝が義経に抱く3つの不審を糺すために訪ねてきます。1つ目は、知盛・維盛・教経の首が偽物であったこと。2つ目は、『初音の鼓』を拝領したこと。3つ目は、平家方の娘卿の君との婚姻について、でした。実は、川越重頼の娘であった卿の君は自害し事を納めようとしたが、弁慶の軽率な行動により、卿の君の死も無駄になり、義経は都を立ち退くことになります。


伏見稲荷の段
頼朝との和睦の道を絶たれ、都落ちをすることになった義経を追って、愛妾の静御前と武蔵坊弁慶が伏見稲荷にたどり着きます。しかし、静は同道することを許されず、義経から初音の鼓を形見代わりに渡され、置き去りにされてしまいます。義経たちを追ってきた笹目忠太が静を見つけ、鼓もろとも連れ去ろうとすると義経の家来の佐藤忠信に化けた狐が現れ、静を救い出します。それを見ていた義経は、狐とは知らずこの忠信に褒美として源九郎義経の名前と鎧を与え、静の供を託します。
渡海屋
大物浦の段
義経一行は、九州へ落ち延びるために、摂津の大物浦の船宿、渡海屋で日和待ちをしています。この家の主人銀平は、義経を詮議にやってきた相模五郎やその供の入江丹蔵を蹴散らし、義経の信頼を得ますが、実は彼こそ壇ノ浦の合戦で死んだはずの平知盛で、幼い娘のお安とみえた安徳帝、妻のお柳になりすました典侍の局らとともに、義経を待ち受けていたのです。幽霊のような装束に身を包んだ知盛は、船出した義経を追って沖に向かいますが、すべてを察知していた義経に、ここでも敗戦。典侍の局らもそれを知り、みな自害してゆきます。そして深傷を負った知盛も、安徳帝を義経に託すと、碇を体に巻き付け、岩の上から入水して果てます。


椎の木の段
平維盛の御台の若葉内侍と若君の六代を連れて、維盛の行方をたずね歩く小金吾は、下市村の茶屋でいがみの権太という小悪党に出逢い、お金をゆすり取られてしまいます。その直後に、今度は追っ手に囲まれた小金吾は、若葉内侍と六代君を逃がすと、奮戦むなしく討死。そこへ偶然通りかかったすし屋の弥左衛門は、息絶えた小金吾の首を討ち落として、家に持ち帰ります。
小金吾討死
の段
平維盛の御台の若葉内侍と若君の六代を連れて、維盛の行方をたずね歩く小金吾は、下市村の茶屋でいがみの権太という小悪党に出逢い、お金をゆすり取られてしまいます。その直後に、今度は追っ手に囲まれた小金吾は、若葉内侍と六代君を逃がすと、奮戦むなしく討死。そこへ偶然通りかかったすし屋の弥左衛門は、息絶えた小金吾の首を討ち落として、家に持ち帰ります。
すしやの段
弥左衛門は、平重盛に旧恩があることから、その息子の維盛を、使用人の弥助と称してかくまっています。この家の娘のお里は弥助に夢中ですが、若葉内侍親子の来訪によって真実を知り、維盛と妻子を逃がします。一方、勘当同然の身であるこの家の息子権太は、詮議に訪れた梶原景時に、維盛の首と縄にかけた内侍親子を差し出します。逆上した弥左衛門は、思わず権太を刺しますが、実は維盛の首は小金吾の首、内侍親子は権太の妻の小せんとわが子の善太郎でした。権太にとっては、日頃の悪業の罪滅ぼしのつもりでしたが、実は頼朝はもともと維盛のことは助けるつもりであったことがわかり、権太の死は報われることなく終わってしまいます。


道行初音旅
義経のいる吉野に向かう静御前と、お供の忠信になりすました狐の道中。満開の桜の山中でひと休みする静に、忠信は戦死した兄の佐藤継信の戦場での様子を語って聞かせます。追いかけてきた藤太と家来の一行を難なくあしらった忠信は、先を行く静と初音の鼓を追って、旅を続けます。
川連法眼館
の段
川連法眼のもとにかくまわれている義経のもとに、二人の佐藤忠信がやって来ます。先に来た方は本物、静御前の供をして後から来た方は、実は狐の化身でした。狐は、自分の両親の皮が使われている初音の鼓を慕って、静の周辺に出没していたのです。が、それがばれてしまったからには、もうここにはいられません。狐は後ろ髪を引かれる想いで姿を消しますが、親子の情愛の深さに感心した義経は、これを呼び戻し、初音の鼓を狐に授けます。鼓の親とともに狂喜する狐は、恩返しに義経の討手をその通力で退治すると、山に帰って行きます。


吉野山中の場 河連館を逃れた義経は、忠信に吉野山中での応戦をまかせます。追ってくるのは頼朝方と、それに味方する吉野山の衆徒たち。敵を蹴散らしほっとした忠信に剛僧姿の平教経が斬りかかってきます。忠信にとって教経は兄継信を殺した敵、忠信は狐の神通力に助けられ教経を捕らえます。そこへ川越太郎が藤原朝方を捕らえて現れ、義経流転の原因をつくったのは朝方であると告げます。平家追討の院宣を出し滅亡に導いたのも朝方の仕業と真相を明らかにすると、それを知った教経は朝方の首を落とし、今度は忠信に自分の首をさしのべます。義経は安徳帝を出家させ、世の平和と五穀豊穣を願いながら、人の世の無常を心に秘めて・・・物語は終わります。



お芝居の見どころ  

初段 北嵯峨庵室の場


初段・堀川御所


二段目・伏見稲荷

忠信が静をボディガードすることになるくだりが展開されます。敵役として登場する早見藤太は半道敵
その藤太をやっつける忠信は、ここでは
荒事で登場。幕切れの幕外での狐六法も見ものです。

二段目・渡海屋

もし知盛が生きてたら、というのが「渡海屋」の場から「大物浦」の場にかけてです。

二段目・大物浦

碇綱を身体に巻き付けて入水自殺をする見せ場から碇知盛とも呼ばれます。
合掌し
仰向けのままで真後ろにダイブするところが、見どころです。

三段目・椎の木

平家の若君のなぐさみに椎の実を拾っているところに男があらわれ金を強請ります。
男は
いがみの権太とあだ名されるならず者です。

三段目・小金吾討死

放射状に張られた捕手の縄の中央で見得を切る手負いの小金吾の、独創的なタテが見ものです。

三段目・鮨屋の場

もし維盛が生きていたら、というのが世話物的な味わいの強い「鮨屋」。
小悪党のいがみの権太が本心を語るもどりの演技が見どころです。


四段目・道行初音旅

静御前と彼女に付き従う狐忠信の舞踏劇。
桜が満開の吉野山を舞台にしていることから「
吉野山」とも呼ばれます。

四段目・河連館

「川連法眼館」は原作の浄瑠璃では四段目の切りにあたることから四の切とも呼ばれる人気場面です。
主役が狐だけに
けれんがふんだんに用いられていて、お馴染みの一幕です。

五段目・吉野山中

吉野の山中で、忠信と平教経の激しい一騎打ちがあって、最後の幕となります。


三段目下市村釣瓶鮨屋の場を、もっと詳しく。

登場人物・(いがみの権太)・(弥助実は平維盛)・(若葉の内侍)・(女房おくら)・(娘お里)・(梶原景時)

(筋書き)
 壇ノ浦に平家が滅亡した後も、三位中将維盛だけは、大和国の「釣瓶鮨」の店に、弥助と名を変えて身を潜めていた。そんな身分とは露知らぬ鮨屋の娘お里は弥助に思いを焦がしている。お里は父親から今夜祝言の杯をさせてやろうと言われたので嬉しくてたまらない。
 そこへ突然、この家から勘当されていた権太が戻り、懐中の人相書きと弥助を照らし合わせ、何かをたくらんで二人を奥へやる。そして何時ものように母親に無心する。息子に甘い母親を空涙で口説いて、まんまと小遣銭をせしめる。そこにあたふたと父親の弥左衛門が帰ってきたので、権太は慌ててその金を鮨の空桶に隠して逃げ込む。弥左衛門は帰る道すがら倒れていた小金吾の生首を手に入れ、権太が金を隠した隣の空桶にそっと隠す。
 一息つくと弥助を呼び出し、梶原平三景時に匿っている維盛の首を討って渡せと迫られたと打ち明ける。そして、「上市村の隠居所の方に忍んでくれ」と言って奥へ去る。
 維盛の妻、若葉の内侍は、幼い六代君の手をひいて道に迷い、計らずもこの「釣瓶鮨」の店に一夜の宿をかりようと立ち寄る。出てきたのは町人姿になった維盛(弥助)なので驚いたが、一別いらいの再会に、その喜びはひとしおだった。 お里は初めて弥助の素性を知り、所詮、かなわぬ恋とあきらめて維盛親子を上市村の隠居所へと落としてやる。
 これを知って出てきた権太は「訴人して褒美の金にありつくのだ」と叫び、父親が首を隠した方の桶をひっ抱えるや一目散に走って行く。一大事と親父の弥左衛門が、後を追おうとした時、梶原が家来を引き連れて物々しく入ってくる。梶原の厳しい詰問に弥左衛門が困惑しているところへ、権太が首桶を抱え内侍と若君を縛って連れてくる。梶原は権太の手柄を賞賛して当座の褒美に頼朝公の陣羽織を与え、親子を引き立てて行く。計略が水の泡となり弥左衛門は怒りの刃を権太の脇腹に突き刺す。権太は深傷に苦しみながら間違えて持ち帰った鮨桶の中に首があったので、初めて父親の忠心が判り、自分の子と女房を若君と内侍の身代わりに仕立てて梶原を騙し、これまでの不幸を詫びるつもりであった。と打ち明ける。
 弥左衛門は初めて知る権太の心根に胸を打たれるが、時既に遅く我子を手にかけた悔恨の涙にくれる。瀕死の権太が吹く呼笛を合図に本物の維盛親子が姿を見せ、改めて権太に謝意を述べた上、さっきの頼朝の陣羽織に恨みの一刀を突き刺す。すると、中から数珠と袈裟がでてくる。
 かって維盛の父重盛に救けられた頼朝が、昔忘れぬ恩返しのつもりであると察した維盛は、その袈裟をかけ数珠を手に、俗界を離れ高野山へ上がって剃髪する覚悟を決める。人々が、それぞれ涙するうちに、権太は満足げに息絶えるのでありました。